日本庭園

日本庭園 ― 原風景のレフュージア(退避地) 2024.3改定版

 まちなかの自然は軽視されがちですが、実は、意外に馬鹿にできません。特に日本庭園は、山海の地形がぎゅっと凝縮されているため、面積の割に多様な植物や昆虫・野鳥が見られます。たとえば白鳥庭園(名古屋市熱田区)では、これまでにチョウ34種、トンボ24種、繁殖期・越冬期の陸鳥31種(他に渡り期等の一時立寄り13種)、同じく水鳥16種(同1種)を確認しています。

   白鳥庭園      徳 川 園   
チョウ累計  34種累計  21種
トンボ累計  24種累計  20種
   (繁殖期・越冬期)
   (渡り期等の一時立寄り)
累計  31種
累計   13種
累計  22種
累計   8種
 水 鳥 (繁殖期・越冬期)
   (渡り期等の一時立寄り)
累計  16種
累計  1
累計  6種
累計   1種
                  ★いきものの確認種数★

 当初は私たちも、日本庭園といえばマツなどの樹木と池というイメージでした。したがって動物として思い浮かぶのはコイくらい…という認識で、日本庭園をチョウが舞う姿など期待していませんでした。しかし2023年の白鳥庭園では、月2回の定例観察日に確認されたチョウは19種、その他の日にも4種が確認されました。過去の確認実績と合わせて累計34種になります。3ha強の規模ながら、鶴舞公園 (名古屋市昭和区) など20ha級の公園に匹敵する種数です。
 徳川園 (名古屋市東区)の東半分は江戸時代以来の樹林で、シイなどの大木が空を覆っています。このため、徳川園こそはチョウが少ないだろうと予想しました。しかし2019年に15種を確認し、これに他の年の確認や南側花壇などでの確認もあわせると累計21種となります。西側の明るい池の周りだけでなく、シイ林の中にぽっかり空いた陽だまりにも、多くのチョウが見られるのです。

 日本庭園といえば池ですが…、白鳥庭園には24種、徳川園には20種のトンボが生息しています。これは、三つの池を持つ鶴舞公園(25種)には及ばないものの、外堀や御深井池などの広い水面を持つ名城公園(名古屋市北区)の18種を上回る水準です。水辺環境の乏しくなっている市街地にあって、白鳥庭園や徳川園は、トンボにとってオアシスのような存在です。
 白鳥庭園は世界デザイン博覧会(1989年)、徳川園は愛・地球博(2005年)を機に整備された比較的新しい庭園です。では、両園の池のトンボはどこから移住してきたのでしょう? 両園とも、それなりの規模の池からは3㎞ほど離れています。両園には、セスジイトトンボ、ムスジイトトンボなど名古屋市内では生息地の限られるトンボ、しかも飛翔力の小さいイトトンボもいるのです。これらの種の供給源は、どこだったのでしょう?

 日本庭園は、限られた敷地の中に山から海に至る多様な地形をギュッと凝縮して再現します。このため、面積の割に多様な環境が形成され、多様な生き物が見られるのが特徴です。
 地形や植物だけでなく、チョウやトンボ、野鳥など多様な生き物が織りなす原風景を縮景・再現してくれるのが、日本庭園だと言えます。両園が整備された後にどこからかトンボやチョウが移住してきたように、今度は周囲の市街地に在来のいきものを送り返し、原風景の維持・再生に貢献する…原風景のレフュージア(退避地)ともいうべき役割が、21世紀の日本庭園には期待されているように思います。

 白鳥庭園(1991年 開園) 徳川園(2004年 再整備・開園)
立地環境沖積低地(かつての堀川河口部)
名古屋台地(熱田台地)の南端
矢田川の河岸段丘と氾濫原低地
名古屋台地の東端
ルーツ尾張藩・国の木曽ヒノキ貯木場
  (1610年~1979年)
尾張藩2代目藩主・光友の隠居屋敷
  (元禄期)
特 徴木曽三川流域の自然を縮景
 *多様な水の物語(自然を誠実に表現)
 *木曽ヒノキのたどったルート
  
(御嶽山~木曽川~伊勢湾~熱田)
尾張藩領内の海・山・里がモチーフ
 *大名庭園を豪壮に再現
 *山(江戸時代から続く照葉樹林)、池泉
  大名好みの名所
概 況有料区域面積: 3.3ha(敷地3.7ha)
築山:木曽五木の針葉樹林
   高低差9m 
池 :面積0.56ha、平均水深0.3m
渓流:延長130m、高低差5.5m
     (供給源は工業用水道)
雄滝:落差3m   雌滝: 落差2m
植生:貯木場を全面的に埋立、敷地造成
有料区域面積: 2.1ha(隣接樹林含め約3ha)
山 :シイ林(特別緑地保全地区1.2ha)
   高低差11m
池 :面積0.48ha、平均水深0.7m
渓流:延長140m、高低差3.7m
    (供給源は地下水=矢田川の伏流水)
大曾根の滝:落差6.3m(3段)
植生:江戸・明治期から続く樹林が残存
備 考造園(全体設計):吉村元男
(材料・施工管理):川崎幸次郎
建築(茶室実施設計・監理):中村昌生
白鳥庭園・公式サイト
造園(設計・施工管理):伊藤邦衛
建築(観仙楼設計監理):日建設計
(茶室設計管理): 大關徹
徳川園・公式サイト

いきもの歳時記(白鳥庭園・徳川園の四季)2023.3改定版  

サクラやツツジの咲く頃、チョウトンボも活動を始めます。
チョウやトンボのいなくなった寒い冬、野鳥たちが木の実をついばみます。
そんな白鳥庭園・徳川園の12か月を、写真で構成してみました。
   * 左下の青字をクリック。

白鳥庭園・徳川園の歩み

白鳥庭園の歩み

白鳥庭園は、江戸時代には尾張藩、明治以降は国が木曽ヒノキを扱う貯木場でした。
1989年の世界デザイン博覧会を機に、日本庭園として整備されました。
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徳川園の歩み

徳川園は、元禄期には2代藩主・光友の隠居所でした。
昭和初年に尾張徳川家から名古屋市に寄付され、公園となりました。
2005年の愛・地球博を機に、日本庭園として整備されました。
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白鳥庭園・徳川園の植生

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  白鳥庭園  徳川園
貯木場を全面的に埋め立てて、敷地造成 段丘上(写真左手)は江戸・明治からの樹林 

・針葉樹(木曽五木) *写真左手奥
・ウメ(築山の東裾
・シイ林(特別緑地保全地区) *写真左手
・ウメ、アンズなど(山上の広場)
渓 流・モミジ・モミジ
池 畔・マツ・マツ
外 周・照葉樹(クスノキ、シイ・カシ類)・クスノキの大木(黒門付近)
その他・大刈込、銀閣寺垣(正門からのアプローチ・ボタン園、花菖蒲園(大名好みの植栽)

基本植生マップ

白鳥庭園・徳川園の基本植生を、マップにしてみました。
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水辺植生マップ

白鳥庭園・徳川園の水辺植生を、マップにしてみました。
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提 案  

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提 案
・白鳥庭園(蝶の庭、蝶の里、蝶の回廊
・徳 川園(徳川園の特徴・潜在力を生かしたチョウの見える化


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提 案
・白鳥庭園(改善2017-21
・徳川園(渓流中溜りのトンボ相多様化

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