2023年3月、
名古屋市は なごやのまちなか 生物多様性緑化 ガイドラインを発表しました。
→ ダウンロード
まちなか(都心とその周辺の市街地で、西部の農地や東部丘陵地を除いた範囲)において、
“生きもののすみか・エサ場・休憩場所” への配慮(生物多様性緑化)を進め、
生態系を回復させるための指針です。
そこで今回は、
ガイドラインを活用する参考として、白鳥庭園での経験をご紹介します。
▶▶ 写 真 ▶▶ 飯田康博/早川雅美/加藤正嗣
“まちなか” の自然
まちなかの自然については、前回の記事で概観しました。→ “まちなか” の自然も馬鹿にできない
要点は、下記の通りです。
① 潜在力: まちなかの自然も里山系の自然も、規模が同等ならポテンシャルも同等
② 弱 点: まちなかの自然は、拠点と拠点が離れてバラバラ
③ 課 題: 拠点と拠点をつなぐ 緑の “飛び石” ネットワーク が必要
だから、事業所、学校や住宅などのオープンスペースの活用が期待されているのです。
白鳥庭園 … 和風バタフライガーデンづくり
白鳥庭園では、2017年から「和風バタフライガーデン」づくりを進めています。→ 和風バタフライガーデン
バタフライガーデンと聞くと、園芸的で洋風っぽいイメージを抱くかもしれません。しかし実は、和風・在来の樹木や山野草にはチョウの食草・食樹(幼虫のエサ)や蜜源(成虫のエサ)がたくさんあります。日本のチョウたちは、こうした和風・在来の樹木や山野草に支えられてきたわけです。ですから、チョウの好きな植物を植えることは、在来種による生物多様性緑化そのものと言ってよいでしょう。→ チョウの食草・食樹 / チョウの蜜源
ポイントは二つです。
① 春から秋まで、蜜源のリレーをつなぐ: 従来の白鳥庭園では梅雨時~夏場の蜜源が少なく、この時期に個体数の落ち込みが見られました。このため、日当たりのよい池の西岸にノアザミを植えました。効果絶大で9種のチョウが訪れ、季節的な個体数落ち込みもなくなりました。また、秋の蜜源の厚みを増すためにフジバカマを植えたところ、渡り途上のアサギマダラはじめ10種が訪れました。→ 蜜源のリレー(白鳥庭園)
② 食草・食樹を植えて産卵・繁殖を促す: 梅林奥にミカン類(アゲハ類の食樹)を植えるとともに、池の西岸にはカタバミ(ヤマトシジミの食草・蜜源)、スミレ類(ツマグロヒョウモンの食草)を園内から移植しました。ヤマトシジミは確実に増え、ツマグロヒョウモンも縄張りを主張するオスが定着しています。
腹八分目の管理で “おすそ分け”
白鳥庭園の梅林奥には、アゲハ類の食樹としてミカン類を植えています。どうやってミカンの存在を知るのか?どうやってミカンの葉っぱだとわかるのか?疑問です。しかしめざとく見つけ、いつの間にか卵を産みつけます。このため葉っぱは、腹ペコ青虫が旺盛に食べるため派手な虫食いです。
そんな青虫ですが、大半が園内の鳥たちに食べられ、ごくまれにしかチョウにはなれません。じゃあ、一体誰のため、何のためにミカン類を植えるのか?と考えてしまいますよね? いのちの循環の輪をつなぐため…です。
ヤブカラシ(藪枯らし)というツル植物があります。ツツジなどの低木にからみつくため、植込みの敵と見なされています。しかしアゲハ類にとっては、夏場の貴重な蜜源です。そこで白鳥庭園では、ヤブカラシの花期(ツツジの花が散った後の6-9月)にはヤブカラシの除草を手控えています。
カタバミ、スミレ、タンポポなど「雑草」とみなされて除草の対象とされがちな草にも、チョウの食草や蜜源がたくさんあります。白鳥庭園では、これらを温存・活用するために “選択的除草” を行っています。
水辺があればトンボ来る♪
水草生えればもっと来る♫ 樹林があればさらに来る♬
トンボは、そのライフステージに応じて利用する環境を変えます。
幼虫(ヤゴ)は水の中で成長し、水草を利用して羽化します。羽化した直後のトンボ(未熟成虫)は、水辺近くの樹林や草地で過ごします。成虫になると、摂食(小虫を捕食)、探雌(雌さがし)、休息、交尾に水辺の植物を利用します。そして水生植物や水面に産卵します。トンボの一生には、このように水面/水草/樹林・草地という複数の環境が必要です。→ トンボの環境利用
トンボの主な居場所(見つけやすい場所)は、トンボの種によって違います。
シオカラトンボやギンヤンマなどは、水草の生えていない池でも見ることができます。このため、最もポピュラーなトンボといえます。一方、イトトンボ類は水草(浮葉植物、抽水植物、沈水植物)の豊かな池を好みます。樹林に囲まれた池を好む種(クロスジギンヤンマ、オオシオカラトンボなど)もいます。アカトンボ類は、水田や休耕田のような湿地を好みます。流水を好むトンボ(オニヤンマ、ハグロトンボなど)もいます。
したがって、水面と同時に水草、樹林・草地を用意してやると、多様なトンボが期待できます。
100年前、堀川と庄内川にはさまれたエリアは一面の水田でした。ところが現在の池の分布は、白鳥庭園を除けば志賀公園、中村公園、松葉公園そして多加良浦の弁天寺を数えるのみです。トンボのお宿は激減しました。→ 名古屋の池とトンボ / 白鳥庭園・徳川園のトンボ
しかし、諦めてはいけません。”まちなか” のトンボ拠点として重要な役割を果たしている白鳥庭園や徳川園も、たかだか20~30年前に造成された人工的な池に過ぎないのです。両園とも、それなりの規模の池からは3kmほど離れています。では、両園のトンボはどこから移住してきたのでしょう? 不思議です。しかし現に多くのトンボが生息しています。移動距離が数百mにすぎないとされるイトトンボ類を含めて!です。 “飛び石” のように水辺を用意すれば、トンボは必ずやってくると思います。
本格的なビオトープとはいかなくても、
ちょっとした心配りだけでも、いきものたちはずいぶん棲みやすくなります。
簡単なことから始めてみませんか?
たとえば、
プランターの一つを “おすそ分け” 専用(虫食い自由)にしてみるとか…
そして少しづつ、
緑の “飛び石” を増やし、大きく育てていきましょう!
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