◆ 前史
2010年秋、白鳥庭園(名古屋市熱田区)のすぐ北側にある名古屋国際会議場で、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されました。庭園に隣接する名古屋学院大学では、これを機会にみつばちプロジェクトがはじまりました。
これらに呼応して、白鳥庭園では無農薬管理に取り組んでいます。
春~秋: 毛虫は割りばしでつまんで捕殺。
冬: イラガの越冬繭や卵を竹べらで削り取る…など。
◆ 近年では…
蝶へのおすそ分けのため、①選択的除草(自生するチョウの食草・蜜源をむしらずに容認・温存)、②新たな食草・蜜源の補強も始まっています。
▶▶ 写 真 ▶▶ 早川雅美/飯田康博/加藤正嗣/川島大次
蝶の庭(上ノ池西岸)




白鳥庭園の北西部に位置する上ノ池西岸は、見晴らしと日当たりの良い低木まじりの草地(東向き斜面)です。ここでは、「蝶の庭」づくり(選択的除草と新たな蜜源の補強)が進められています。
選択的除草(自生する食草・蜜源の容認・温存)
「雑草」と呼ばれる植物の中にも、チョウの幼虫の食べ物(食草)やチョウの成虫のエネルギー源(蜜源)となるものがたくさんあります。
例えば…、カタバミ(ヤマトシジミの食草&蜜源)、
シロツメクサ(ツバメシジミの食草、ヤマトシジミ、モンシロチョウなどの蜜源)、
スミレ(ツマグロヒョウモンの食草)、
タンポポ(モンシロチョウ、ナミアゲハなどの蜜源)、
ヤブカラシ(アオスジアゲハ、ナミアゲハなどの蜜源)などです。
日本庭園では、通常これらの「雑草」は除草の対象です。しかし白鳥庭園では、選択的除草によってこれらの食草・蜜源を容認・温存し、チョウにおすそ分けしています。

2022.0724


ヤブカラシは、ツツジなどの低木にからみつくツル性植物です。このため、樹木の生育を阻害する(藪枯らし)とみなされて嫌われがちです。しかし6~8月の花期には、アオスジアゲハ、ナミアゲハなどの蜜源となります。夏場の蜜源が少ない日本庭園では、貴重な存在です。
そこで白鳥庭園では、上ノ池西岸のドウダンツツジやササにからみつくヤブカラシを、夏場は除草せずに容認し、花期の終わった9月以降に除草しています。
新たな蜜源の補強(春から秋までリレーをつなぐ)
蜜源のリレーを春から秋までつなぐため、日本庭園にふさわしい和風の蜜源植物を補強しています。
例えば…、5-6月: ノアザミ(アゲハ類、モンシロチョウ始め各種チョウの蜜源)
6-7月: オニユリ(クロアゲハ、ナガサキアゲハなど黒系のアゲハ類の蜜源)
8-10月: オミナエシ(アオスジアゲハ、ツマグロヒョウモン始め各種チョウの蜜源)
9-10月: フジバカマ
(アオスジアゲハ、ツマグロヒョウモン、アサギマダラ始め各種チョウの蜜源)






蝶の里(梅林奥)


白鳥庭園の南西部にあたる梅林奥(築山の麓)では、山里の雰囲気を生かし、畑地系の食草・蜜源を補強して「蝶の里」づくりを進めています。
春にはモンシロチョウなどの食草・蜜源となるアブラナ科(セイヨウアブラナ、ムラサキハナナ)、夏にはモンシロチョウ始め各種のチョウの蜜源となるソバを育てています。










アゲハ類の食草となるミカン科(ミカン、サンショウなど)も植えています。
腹ペコ青虫の食欲は旺盛で、左写真のように葉っぱを食べつくされてしまう木もあります。ミカンの木には気の毒ですが、これもおすそ分けです。
これらの青虫や蛹ですが、無事に羽化できるのはほんのわずか。大半が鳥などに食べられてしまいます。卵が蝶の成虫になる確率は100個のうち1個か2個だそうです。

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